2021-01-01から1年間の記事一覧

いとしい

高校卒業を控えた春の放課後に、糸永くんと待ち合わせをしていた。糸永くんに、園田さんと一緒に行きたいところがあるからと、誘われたのだ。 あれから、私たちは友達になった。もちろん「そういうこと」はしていない。ただの友達だ。とはいえ、塾で会った時…

光ってみえるもの

0 中学校を卒業したその日に、旅館を燃やした。雲ひとつない月の綺麗な夜だった。私は少し離れた場所から、ずっと燃える旅館を見つめていた。暗闇に浮かぶ炎が、頬に感じる熱が、私に生きているという実感をもたらした。美しいと思った。 1 はじめは、自分が…

ファム・ファタル

1. 海沿いの国道を北へ、別府へ向かって進路を取る。中古のバイクだが、十分走る。陽射しが強いので、頬に感じる12月の潮風が気持ちが良かった。 朝から運転を続けて、太陽が高く登ったところで、腹が減っていることに気づく。昼食を取ろうと、通りかかった…

あなたがほしい

糸永くんが街で男の人と2人でいるところを、何度か見たことがある。見かける場所は、駅前だったり、海沿いの国道だったり、色々。年齢も、大学生くらいから私のお父さんくらいの人まで、幅広い。 私はそれを見るたび、とても意外で、不思議だった。 糸永くん…

神様

1 別府クロス学院は、カトリック系の男子高校だ。 今朝降ったばかりの小雨が、桜の花びらを濡らしている。校門から校舎へ続く真っ白い桜並木は、4月上旬の今しか見られない。 つきあたりの校舎を右に曲がると、大きなお聖堂が立っている。毎日、朝礼より1時…

3弾前説覚書

糸永くんだけ ぴーんぽーんぱーんぽーん!えー、皆様、本日はミラクルステージサンリオ男子カワイイエボリューションにおこしいただきまして、誠にありがとうございます。九州サンリオ男子の糸永壱郎でーす! 先程上演中の注意事項が流れておりましたが、皆…

光ってみえるもの

1. 今日の夜は空いているか、と九条くんから連絡が来た。実に2年ぶりの連絡だった。 正直に予定はないと伝えると、食事に誘われた。前にも九条くんと来たことのある居酒屋だった。 「元気そうやなあ」 九条くんはビールとタバコを交互に口にする。私は、レモ…

高尾ノエルと私

「日本に行くんだ」 窓から夕焼けが差し込む終業後のオフィスに、私とノエルだけがいた。ノエルは私が調整し終えたたばかりのXチェンジャーを受け取ると、思い出したみたいに話しかけた。 「そう」 「あれ、驚かないの?」 「あなた、自分で思ってるより有名…