諸伏さんと私

 

私は信州大学医学部医学科の法医学講座に所属するの法医学者で、長野県の異常死体の解剖を担当しています。

 

普段の解剖の時は、若手の警察官がご遺体を運んできて、私たちの解剖に同席して、記録だけ取って一旦帰ります。数週間後、諸々の検査結果を含めて私が報告書を作成して、警察に渡します。

 

ある日、はじめて見る警察官がいました。若手という感じではありません。一刻もはやく解剖の結果を知りたくて、来たみたいです。


解剖の最中もあーだこーだ口を出してきて、やりづらいなーと思ったけど、一般の警察官とは違って、法医学の知識がかなりあって、私も楽しくなってきます。その甲斐もあってその事件は無事解決します。

 

それが私と諸伏さんの出会いです。


諸伏さんはその後も時間があれば解剖に顔を出すようになって、私たちは少しず仲良くなっていきます。でも、諸伏さんは遺体の些細な傷には気がつくせに、私のアクセサリーや化粧の変化には全く気づきません。まあ、そんなところも、嫌いではないのですが……。


ある日、諸伏さんが解剖のない日に医局に来て、何かと思ったら異動が決まったから挨拶をしにきたのだと話します。もう会えないのかと寂しく思っていたら、連絡先を渡されて、エ!って驚くと、これからも捜査の相談をさせてもらってもいいですか、と。期待したのが恥ずかしくなって、私はしずしずとその連絡先を受け取ります。


それから、諸伏さんからたまに連絡が来るようになります。諸伏さんが担当している事件のことに、法医学者としてアドバイスをします。

 

ある日、「次の日曜は空いてますか」って連絡がきて、デート?!って一瞬期待しちゃうんだけど、まあ、また何か事件があって、それについて相談なんだろうって、自分に言い聞かせます。散々迷って、結局仕事だしなあって、日曜はスーツを着て待ち合わせに向かいます。


待ち合わせ場所に着いて、一緒にランチをして、映画を見て、そのあと喫茶店に入ります。私が「それで、今日はどんな事件の相談ですか?」って聞いたら、諸伏さんは、ちょっと驚いた顔して、でもそのあと納得したような顔をします。


「まじめなのはあなたのいいところですが、同時に厄介でもありすね」


諸伏さんはそう言って笑うから、私はちょっと、期待しちゃうんだよね。