きょおとも

 


 山里祭が終わってしばらくした後の放課後に、白谷くんに呼び出された。待ち合わせ場所は、山里高校と里央高校を線で結んだちょうど真ん中あたりにある、図書館だ。以前、はやりの小説を借りるために、来たことがあったから、道には迷わなかった。

 


「智さん、こっちこっちー!」

 


 館内をうろうろしていると、後ろから呼び止められた。振り向くと、自習スペースのところに、白谷くんがいた。既に机の上に教科書を広げて、2人分の座席を確保している。俺は白谷くんに促されるまま、横に腰掛ける。

 


「来週テストなんで、部活は休みなんすよ」

 


 山里もテスト期間だ。どこの高校も同じらしい。学生向けに解放された自習室は、さまざまな制服を着た高校生で溢れていて、騒がしい。

白谷くんは、机の上の数学の教科書を俺に見せつけた。

 


「智博先生!頼りにしてます」

「俺、暇ちゃうねんぞ。受験生やし」

「智さんは勉強できるから余裕だってゆずさんに聞きました」

「ゆずのやつ……」

 


 確かに志望校の模試の判定は良い方だが、そんな情報まで共有されているとは。俺はがっくしと肩を落とす。白谷くんはそんな俺を無視して調子良く続ける。

 


「まあいいでしょ。教えるのも勉強になりますよ!」

 


 白谷くんは、ニコニコしている。相変わらず、人好きのする笑顔だ。こんなふうに頼まれては、俺でなくても断りづらいだろう。白谷くんには、そういう魅力があった。

 


「まあいいけど、なんで俺やねん」

 


 わざわざ他校の上級生を呼び出さなくても、里央高校にも頼りになるやつはいるだろう。まあ、頼まれると断れない気質に、つけこまれているという自覚はあるのだが。

 俺はため息をついてうつむく。うつむいたところを、白谷くんが覗き込んでくる。

 


「ビシッと言わないとわかんない感じですか?」

 


 温度が伝わってくるくらいの近さで、白谷くんがそう笑うので、俺はのけぞった。白谷くんを睨むと、心なしかさっきよりもニコニコしている。

 


「……次誘うんなら、映画館とかにしてや」

 


 図書館デートなんて、わかりづらい。期待する方だって、期待しきれないというものだ。

 俺がそう言い返すと、白谷くんは、一瞬驚いた表情をして、それからまた笑った。

 


「いいっすねー!あと、水族館も行きません?」

「まずはテスト終わってからな」

 


 白谷くんの笑顔を見ていると、頼られるのも悪くないと思う。来週のテストの後、どこに行こうかと考えながら、教科書に向き直る。